灰朧 6

2006年03月10日

(5からつづく=右の「バックナンバー」中の5をクリック)

前を行くベンツが、生麦ランプ手前で左車線に寄った。
それに合わせてハンドルを左に切ると、間の車がいなくなり、ベンツのすぐ後についた。
いきなり裸にされたような気分だった。

ランプからおりたベンツは、京急生麦駅の先で線路を潜り、狭い道をゆっくりと進んだ。
大きな木立に覆われた場所に出て、奥に続く道にためらいなく入って行った。
俺は、手前の入口で慎重に停車し、先を行くベンツを目で追う。やがて広場に止まるのが見えた。

伊勢半 桃 2.JPG
(写真をクリック)


近くに大きな山門があるところを見ると、そこは大きな寺の駐車場らしかった。
ベンツの運転席から出てきた作務衣のような和服を着た黒装束の男が、暗い遮蔽フィルターで隠された後部右ドアを開ける。大脳視覚野にいやというほどに刻み込んだ青木が出てきた。男と同じく、墨染めの衣に、墨染めの袴。雪駄履きだ。

青木は男の先に立ち、奥への道に上がり、古いどっしりした木造建築の方へゆっくりと歩いて行った。
何をしようというのか?
法事か?

谷がすぐに着くだろう。探ってもらおう。

3年前、関東龍友会一家の総寄り合いが箱根湯本の古い旅館であったとき、俺は組長の運転手でついて行き、青木を遠くから見た。
全国から200余人の組長が集まり、側近も合わせれば1000人以上はいたから、俺が顔を覚えられている心配はまずない。だが、慎重にやるのにこしたことはない。

「いやぁ、びっくりしたなぁ……、まさかねぇ。酒々井さん、青木、何しに来たって思います? ちょっと試しに言ってみてくださいよ。当てずっぽうでいいから」
切り妻の大屋根を載せた建物から小走りで戻った谷が、額と小鼻に汗を浮かべ、息を弾ませた。

「……そうさなあ。坊さんの所へ布施でも持ってきたか? 出入りで死んだ組員たちに、経でもあげてもらおうってぇ訳で……」
「外れです。座禅スよ、座禅座禅。座禅んっ…。今日は誰でも参加出来る日曜参禅会ってえのがここであって、それなようなんです。ここ、禅宗の総本山の無想寺って寺だそうです…。まっさかなぁ…、座禅なんてなぁ……。考えらんねぇよ」

 俺の描いた絵図を、頭の中で練った通りに、うまく成功させられるだろうか。いや、どうしてもやり遂げるんだ。やり遂げて…、そして、俺が浮かび上がったそこに、いったい何があるのか、この目で、しっかりと見届けるのだ。

 張り込みと尾行を繰り返していたあの頃、俺は、そこにだけ思いを注ぎ込んでいた。
 あれは、
俺の力の限界を見極めたい。
いや、限界を超えてその先へゆこうという、
俺の、俺自身への挑戦だったという気がする。

 きっかけは、組から与えられたものだった。
 だが、それが俺にもたらされた瞬間、それは、俺の奥深いところから湧き出たかのように、
 すぐに、俺自身のテーマになった。

 俺は何者なのか? 何をやろうとしているのか? そしてどこへ行こうとしているのか?
 そんな疑問に、ときどき揺すぶられ、己にはぐれる。
 あれは、そんな俺自身をしっかりと確かめるための試し石だった。
 俺が無意識に求めていたものが、ああいう形をとって、ある日突然、姿を現したのだ。

伊勢半 青 1.JPG
(写真をクリック)

 朝8時から夕方6時までに限定して、何も考えずに、本牧周辺での青木の動きを、細大もらさず見張り続ける。
 1ヶ月、それで足りなければ2ヶ月3ヶ月と続ける。
 青木の行動の習癖は、この観察できっとつかめる。俺が、動物行動学から得た知識だ。

 パソコンのハードディスクの中には、
 青木が日々の行動の繰り返しの中で示した、警備の手薄な場所や時間帯が、細かく記録されている。観察記録を1ヶ月、2ヶ月と続けるうちに、それらはくっきりと浮き出してくる。

それらの中で、青木が、その日かならず繰り返し、しかも攻撃に対してもっとも弱点をさらす隙を、綿密な調査と勘で探し出し、先回りをして待ち伏せし、現れた青木に、火柱のような一点集中攻撃をしかけるのだ。
(7へ続く)


posted by Jiraux at 20:02 | Comment(1) | TrackBack(0) | Jiraux's novel 小説
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Posted by みんなのプロフィール at 2006年03月12日 03:11
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