灰朧          7

2006年03月13日

(6からつづく=右の「バックナンバー」中の6をクリック)

張り込みを始めて1ヶ月の間に、青木は、新幹線で1度遠出したほかは、本牧のドヤに落ち着いていた。
禅寺とゴルフに釣り、サウナが繰り返され、横浜中心部の組事務所へ不意に出かけ、銀座の百貨店に1度行った。あまり活動的ではなかった。意外だった。
もっとも張り込みは朝8時から夕方の6時までだから、青木の顔は半分しか見えていなかった。
この業界には夜行型が多い。張り込みを夜にしていたら、きっと、もっと違った動きを見せたのだろう。だが、夜は、青木の身辺警備が昼よりずっと緊密になる。
確実に殺るなら、昼しかなかった。

Gaudhi.JPG
(写真をクリック)


パソコンの張り込み記録を見ると、
確実に繰り返され、しかも、時間にそれほど狂いがないのは、毎週1回ずつの座禅とゴルフ、3日に1度のサウナだった。

青木のボディガードは、座禅が1人、ゴルフは3人、サウナが2人だ。人数は、判で押したように毎回一緒だ。
勤務表を作って、当番制で若頭たちに、ボディガードをさせているのだ。同じ組内だから、そんなところは手に取るように分かる。

「一番殺(や)りやすいのは座禅だな。次にゴルフか…。サウナも悪くなさそうだが、風呂の中じゃぁ、殺った後で逃げ場がねえなぁ……」
「サウナじゃ素っ裸だから、チャカ(拳銃)は、バスタオルにくるんでどっかに隠しておかきゃいけませんね。ボディガードが2人くっ付いてるから、動く前に見つかりそうだな…。裸だと逃げにくいしな。まあ、バスタオルいっちょで駆けだして、外で待ってる車に乗り込むって段取りになるけど、バスタオル落としたらフルチンになっちゃうな……。ぶらぶらさせて……、格好悪いやぁ」

廃墟 プラハ 小説用.JPG
(写真をクリック)


「東京都港区白金1丁目、佐藤権六」
俺は入会申込書にそのように書き入れ、入会金1000円を添えて無想寺の参禅会受付に提出し、会員になった。
 隣の着替え室に入ると、十人あまりが座禅着に着替えているところだった。

 俺はGパンにTシャツ姿の、そのままの格好でやることにした。
 参禅者は150人を超えているようだった。
 十余人の表情には、いずれもどこかに愁いのような感じがあった。
抱えきれない悩みでもあるというのか?
「人生をあまりに難しく考えすぎちゃいないか? おいっ!」
と、肩でもどやしつけたい気分が湧いてくるのを押さえつけるのがたいへんだった。

 青木を認めたのは、参禅会の最終段階、作務(さむ)の作業の前に、全員が廊下に招集された時だった。

「それでは作務に入ります。東司(とうす)掃除の希望者はいらっしゃいますか?」
枯れ木のように老いた世話役が問うと、
真っ先に手を挙げ、集団から半歩前に出たのが、丸坊主のレスラーのような短躯の男だった。
 青木だった。左後ろに似たような体型の若い職人刈りが影のようにしてくっついていた。
 東司(とうす)とは、便所のことだ。
(8へ続く)


posted by Jiraux at 17:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | Jiraux's novel 小説
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