灰朧   11

2006年04月14日

(10からつづく=右の「バックナンバー」中の10をクリック)


 俺は、追い詰められていた。ほかの選択肢が、あの時、俺にあったか?
 組長の息子のクラスメートが、暗闇に、ほっと灯してくれた仄明かりに救われ、そっちのほうへ、幼児のように、ただ歩いていっただけだ。

ランブラ 横.JPG
(写真をクリック)

10、11……。
腹に築かれた新たな重心が、自己主張を始めていた。
おれは、さっきからここにいるぞ、と云っていた。

 そうだ。もう抜かなければならない。
 抜いて業火を噴射させた瞬間、
新たな、俺の命の流れが始まる。

 ゆっくり歩きながら、うつむきのまま、右手だけを静かに上げ、懐に手を差し込んだ。
 銃把を握り、トリガーに人差し指を掛けた。

 一瞬、鐘の音が響き渡った。破鐘の大音だった。
 「止静(しじょう)っ!」

 隅の鐘のあたりを見た。
 鐘撞きの紐を両手で握る、青黒く、痩せた若い僧が、
10bぐらい向こうからこっちを見ていた。

 誰だ?
 あいつは誰か?……
 分からぬ。
 
 歩き続けたまま、懐から手を抜き、平然を装って、単(たん)の畳に上がり、結跏趺坐した。

 座禅開始を皆に告げる合図の鐘が鳴ったのは、
偶然か?
 それとも、俺の動きを未然に封じるためだったのか?
 顔の皮膚ひとつ動かさず、静かに見えただろうが、
 しかし、俺の心の中は、推理の無数の触手が蠢き、絡み合い、熱く混乱していた。

 鐘を打つタイミングが良過ぎはしなかったか?

 俺の行動を止めるためだったなら、俺のことが、やがて青木の耳に届くだろう。
 鉄壁の警戒網がすぐに出来て、俺たちは頓挫する。
 今度はこっちが危なくなる。

 それにしても、誰か? あの僧は。

 両目を半眼に閉じ、俯きになって、面壁したまま、
左6,7bあたりで座禅を組む青木を、
 視覚、味覚を除く三覚と、第六勘を動員して探った。
 空気の動きはない。
 音はない。
 青木は、あのままの姿勢で座り続けている。

 谷と杉坂は、俺を待ち続けて、焦ってはいないか?
 1時半を過ぎて現れなかったら中止で、解散するという打ち合わせになってはいるが……。

 警策を掲げて巡り続ける僧たちの、
衣擦れの音だけが、静寂の中に聞こえていた。

 伽羅が、微かに匂った。

(12へ続く)



posted by Jiraux at 18:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | Jiraux's novel 小説
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